こんにちは。スマイレアデンタルクリニック 副院長の小林志保子です。
前回は大人から子供へむし歯菌がうつるので、家族全員でお口のケアをしましょうというお話をしました。(→お子さんのむし歯予防のために①)
むし歯予防のお話の続きをする前に、今回はいったん『どうやってむし歯ができるのか』についてお話したいと思います。
むし歯は、歯、むし歯菌、糖分(炭水化物)、時間の4つが揃うことでできます。
歯の表面でむし歯菌が増えるとプラーク(歯垢)ができます。
このプラークのpHは普段は中性に保たれています(pH7ぐらい)。
食事などで糖(炭水化物)を摂取すると、プラーク中のむし歯菌がそれをエサにして増殖すると同時に副産物として酸を作り出すため、プラークのpHが酸性になります。
糖(炭水化物)が供給されている間はプラークのpHは酸性のままですが、飲食が終わればだ液の持つ力によって再び中性に戻ります。
pHがある一定以下になると歯からカルシウムやリン酸が溶け出す《脱灰》が起こり、一定より高くなれば溶け出したカルシウムやリン酸が再び歯に取り込まれる《再石灰化》が起こります。
通常はこの脱灰と再石灰化のバランスがうまく取れていることでむし歯にならずに済んでいますが、このバランスが崩れて脱灰の量が再石灰化を上回るとむし歯になるのです。
下の図は、糖を摂取したあとのプラークのpHの変化をグラフにしたものです。
脱灰が起こりはじめるpHを『臨界pH』といい、永久歯のエナメル質の臨界pHは5.5です。
ちなみに永久歯の象牙質やセメント質の臨界pHは6.0~6.2、乳歯や生えて間もない永久歯の臨界pHは5.7~6.2と言われています。
上の図の赤い部分はエナメル質の脱灰が起こる範囲で、黄色とオレンジの部分は乳歯や象牙質の脱灰が起こり得る範囲です。
永久歯と比べると乳歯の赤い部分の面積は大きく、脱灰されやすいことが分かります。
また、永久歯の象牙質は乳歯と同じくらい脱灰しやすいということも分かります。
つまり、歯ぐきが下がって歯根が露出していると、酸に弱い象牙質やセメント質が露出しているため、むし歯になりやすいのです。
さて、脱灰と再石灰化、臨界pHについてなんとなくお分かりいただけたでしょうか。
脱灰と再石灰化のバランスが崩れてむし歯ができるまでには様々な要因があり、それらが重なることでむし歯になります。
- 食生活
- だ液の量と質
- プラークの量
- 口の中のむし歯菌の数
- 歯の形や歯並び
などはむし歯の主なリスクファクターとなります。
自分にどんなむし歯リスクがあるのかを知ることは、予防対策を練るうえでとても大切なことです。
今むし歯がない人でも、年齢を重ねたり生活環境が変わることでリスクが増えることもあるため油断は禁物です。
当たり前のことですが、むし歯を治療しても元のむし歯のなかった健康な歯に戻ることはないので、むし歯にはならないようにすることがいちばんです。
そのために、自分のむし歯リスクを知って、しっかりと予防しましょう。
むし歯リスクのうち、食生活の話については次回お話したいと思います。